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ショートストーリー4(銀河・ルナ・夜明) 3ページ目
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さかのぼっての4月。
藍園学園高校の入学式後。講堂で行われた部活動説明会に、銀河は最前列で参加していた。
部活動の宣伝を希望する各部の代表者が順に壇上にあがり、それぞれ3分ほどのアピールをする会である。事前に受け取った部活動紹介の冊子に目を通していた銀河のお目当ては「漫画研究部」と「2次元文化愛好研究部」の2つであった。
A4の冊子は1ページが3つに区切られており、1つの部に1つのスペースが割り当てられている。「漫研」のスペースには女の子の顔イラストが描かれており、吹き出しの中に大きく「部員募集中」と主張していた。それに対して「2研」のスペースには、中央に小さく「アニメ、漫画、ライトノベル、ゲーム」と書かれているだけで、他に何もない。
敷居が低いのは、言うまでもなく「漫研」のほうだ。
だが。
問題なのは、どちらが銀河にとって居心地がいいか、だ。
銀河は漫画が好きだ。
無論、ただ「漫画が好き」な人間は、たくさんいる。
だが、銀河のそれは、消費物として漫画を読む大勢の一般人のそれとは一線を画している。
この感覚は、おそらく「なんとなく暇つぶし程度の感覚で週刊漫画雑誌を読んでいる程度」の人間にはわかるまい、と銀河は思う。もちろんそれが悪いわけではない。だが――言ってみれば銀河は「漫画を愛している」のである。
中学の頃、銀河が属していたグループは、漫画好きの集まりであった。
最初は、漫画の話ができる環境は、それだけで好ましかった。
しかし。
彼女たちとの決定的な温度差を覚えたのは、中学2年の中頃のことだ。
詳細は思い出したくもない。
ただ、銀河はエンターテインメントには対価を払うべきだと主張し、
彼女たちは、払わなくて済む金ならば払わない、と言い切っただけのことだ。
法に触れるか触れないかなどは問題ではなかった。
銀河にとって彼女たちのそれは唾棄すべき思考であり、その会話を耳に入れることすらも汚らわしく、それゆえに銀河はそのグループからそっと距離を取るようになった。
――部活ともなれば、玉石混淆になるのは解っている。
だから、一人でもいい。「同類」がいる部に入りたい。
銀河はそう考えて、部活動説明会に臨んだのだが――
結論から言おう。「2研」は部活動説明会に不参加であった。
銀河は「漫研」のアピールに、不満があったわけではない。男子生徒が3人壇上にあがり、超有名な漫画を題材にコントめいたことをやった、あれが悪いとは思わない。
思わないのだが――
(……両方見ておかねば気が済まん、というだけの話でもある)
そんなわけで銀河は、部室棟2階の中頃にある「2研」の部室前にやってきていた。
スチール製の薄汚れた扉。斜めに傾いだプレートに「2次元文化愛好研究部」の印字。下には女の子のイラストが貼られており、飛び出したフキダシの中に「開放厳禁」と書かれている。
何気ないイラストではあるが、銀河はそれに目を留める。
(これは……)
いわゆる「萌え絵」である。が――
4・5頭身ほどのディフォルメ感。女の子らしい身体のライン。身にまとうガーリーな服装から躍動感のあるポーズまで、全てが全力で可愛さを表現しているのがくみ取れる。基礎となる技術力が高いのはもちろんだが、その「気の遣い方」が好ましく感じる。
(……)
銀河は控えめに扉をノックした。
数秒待機するが、返事はない。
もう一度、銀河は今度はいくぶん強めにノックをする。
やはり返事はない。
(留守、か?)
出直すべきだろうか。
そう考えて、
しかしなんとなく、ノブに手を伸ばした。
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