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ショートストーリー4(銀河・ルナ・夜明) 2ページ目

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「……たかしくんとカルロスさまのほのかな恋」
「夜明先輩は?」
「も、もちろん、り、リマとたかしくん……」
「ちなみに俺の思う見所は、生意気をこじらせて世界征服に乗り出したカルロスとあゆみおねーさんの関係だ。できればショタおねであってほしい」
 リトルマジカルにおける、主人公がリマ、たかしくんというのはその幼馴染みで巻き込まれ方の一般人、カルロスはリマのライバルの悪い魔法使いである。たかし君の姉があゆみお姉さんであり、そのあたりのちょっと入り組んだ恋愛模様もリトルマジカルの見所になっている。
「……」
「……」
「な? いまいち合わんだろう?」
「え、えっと、カルロスさまを軸に組み立てれば、リマとあゆみおねーさんとたかしくんの複雑な関係が」
「それでは公式をなぞっているだけではないか。いやまあ、悪くはないが」
「ど、同人誌で多いのは、ふ、二人くらいに登場人物を絞って、か、関係性を深く描いてるものだから……」
「そういうほうが描きやすいっていうのはあるかもしれませんね」
「というか、おおよそ24ページだの32ページだのの同人誌で、どうやって4人の人間関係を掘り下げるというのだ。安易に考えつくのは成人向けにして4人で乱」
「下品禁止」
 ルナは銀河の発言をばっさりと遮り、
「それに、私はカルロスさまとたかしくんだったらカルロスさまが受け派ですけれど、銀河さんのほうは違うでしょう? ショタおねって今さっき言ってたし」
「たしかにカルロスの生意気攻めが基本ではあるが、俺の場合は逆でも一向に構わん。……リマとカルロスでカップリングする場合、カルロスが強引に攻めることになるのか?」
「そ、そういうのは、じょ、冗談でも聞きたくない」
 夜明はいささか不機嫌そうに言って、恥ずかしそうに続ける。
「……か、カップルなら、リマとたかしくんで、ふ、普通にたかしくんがリードしてほしいし」
「やはり3人の趣向を混ぜ合わせるのは難しいな……」
 銀河はうなり、
「しかしこう考えるとリトルマジカルというのも良くできた話だな。2次創作をしたい欲に駆られてくるぞ」
「銀河さんは漫画が描けるからね」
「それは違う、ルナくん」
 銀河は人差し指を振って、
「2次創作に限らず、創作の源流というのは、作れるや作れないに拠るものではない。大事なのは、作りたいか否か、ただそれだけだ」
「うーん」
 ルナは手袋をはめた人差し指をあごに当てて、
「たしかにまあ、私もイラストぐらいなら描きたくなったりはするかな」
「わ、私はそういうのはないけど……」
 夜明は少し口ごもり、周囲をちらりと見回してから小声で、
「ゲ、ゲームに関してなら、じ、自分でも作りたくなるかも」
「なるほど、総員多少はクリエイター気質があるのだな」
「私は読むほうがだいぶ先行ですけどね」
「わ、私も別に、そ、そこまでのものじゃ」
「ふむ」
 銀河は空を見上げる。少しずつ空が明るくなってきているが、まだ太陽は見えない。
「夏コミのサークル申し込み書を買っておくか。漫画は俺が描くとして、ルナくんのイラストも俺は好きだからな。1ページなり2ページなり描いてもらい、無論夜明先輩にもページを差し上げるとして――テキストベースで何か書くのでも一向に構わないと思います――ついでにその時点で新入部員がいればそれも巻き込んでみたい」
「サークル参加ですか……」
 ルナは人混みの彼方、逆ピラミッド型の建物に視線を向けて、
「コミパのサークル参加申し込み〆切っていつごろなんだろう。かなり早いうちにしなきゃならないはずだよね? 本の〆切とかはまだ考えなくていいと思うけど、ジャンルを考えなくちゃいけないね」
「とりあえずはリトルマジカルだろう? この話の出だしがそうだったのだからな。ジャンルの流行り廃りの問題はあるだろうが、描きたいものを描かずにどうするというのだ」
 冷たい風が吹いて、三人は身を縮こまらせる。
 ルナは内ポケットから取り出したカイロを頬に当てながら、
「新一年生が入部してきたとして、ジャンルが合えばいいんだけど」
「それ以前に、創作をしたい者かどうかがわからん。2次元を愛する者であれば誰でも拒まんのがうちの部の信条だからな」
「前から思ってたんだけど、うちの部って少数じゃない? 入部希望者って少ないの?」
 ルナの質問に、銀河はちらりと夜明を見やった。夜明は小さく頷き、
「きょ、去年は3年生が3人いて、わ、私と合わせて4人だったわ。う、うちの学校の場合、ま、漫研が結構な勢力を持ってるから。こ、今年はルナと銀河が入ってくれたから、よ、よかったんだけど」
「なるほど……たしかに入部するとき、漫研と迷ったんですよね。銀河さんはそんなことなかった? っていうか、私が2研に入ったときにはもう部長だったけど、あれってどういうことだったの?」
 たしかに、3年生が不在、2年生には夜明一人だけが在籍している部活で、1年生の銀河が部長をやっているのは異色である。ルナの疑問も最もだ。
「ああ――あのときのことか」
 銀河は腕を組み、当時のことを思い起こす――

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