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ショートストーリー6(夕陽・銀河・ルナ・夜明・ひなた) 2ページ目

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 書かれた文字は、

【いっそ女子を好きになって百合路線で】

 銀河は得意満面、中指で眼鏡をくいと押し上げて、
「この部に足りないモノ! それはゆりゆりしさだ!」
 再び、ばん! と机を叩いて立ち上がり、
「何しろこれだけ女子メンバーがいるのだ! むしろ百合っぽさがないほうが不自然だとすら言えるのではなかろうか! なんか部活もので男子が一名だけいるとハーレムな感じになりがちだが、ここで複雑な矢印が飛び交う人間関係を構築することで新たなエンターテインメントとしての可能性を模索するのはどうだろう!」
 静まり返った一同の前で、銀河は、ぶん、と右手を水平に振りぬいて、それをぐっと握りしめる。
「それに何より、著者が最近になって百合豚になったのは何よりの変化である!」
「え」
「……あの人、ずいぶん前から百合もの書いてませんでした?」
 夕陽が言うと、銀河はうなずき、
「お前の疑問ももっともだ。が、アレはなんか色々な事情があって云々、当時は特に百合というジャンルに思い入れはなかったらしい。それが2014年に色々あって、本作『赤井くんには彼女がいない』の執筆を始めて以降に自分が百合好きだということに気づき、主人公を男にしてしまったことを後悔し、百合が書きたい百合が書きたいと苦悶の日々を送っているのだそうだ」
「……ああ、なんとなく、今回の一連のショートストーリーを読んでいて、そういうにおいというか、感じてはいたんですが」
 呆れたように夕陽が言い、銀河はまたもうなずき、
「最近の著者はdア◯メス◯アで百合の匂いのするアニメをチェックし、しばらく前の更新で【仲良し女の子】という明らかにソレなタグができたことに歓喜していたが、タグが付けられている作品がまだまだ少ないことなどから――」
「もういいもういいですっ!」
 ルナはばたばたと手を振って銀河の長口上を止め、
「そ、それじゃあ、次の人行きましょう、次っ! 当のひなたちゃんはどう?」
「え、私も意見を出すんですか? じゃ、じゃあ、えっと、」
 ひなたは慌ててフェルトペンを手に、うーん、と考えながらフリップに文字を記し、
 とん、と机の上に立てる。文面は、

【メインヒロインになる】

 ひなたはこほんと咳払い、
「現状、メインヒロインってルナ先輩じゃないですか?」
「えっ」
「え……」
「え?」
「そうなの?」
 当のルナまでもがきょとんとした顔をする。
「そうなんですっ!」
 ひなたはまずツッコんでから、腕を組んで人差し指を立て、
「まず、本日発売となる『赤井くんには彼女がいない』本編においての登場シーンを見てください。明らかにメインヒロインはルナ先輩ですよね」
「あー、たしかに……でも、ほら、登場シーンでいえば、イラスト担当のMITAONSYA先生が仰るところの『ラスボス』がいるわけだし、」
「それはそれです」
 ルナの言葉を、ひなたはばっさりと遮る。
「(発売当日公開なので検閲)は『ラスボス』であることが災いしてもいるんです。表紙にも口絵にも大っぴらには登場できなかったわけですから」
 でもって、とひなたは続ける。
「ルナ先輩がメインヒロインとして位置づけられているのは、その扱いでもわかるんです。このショートストーリーが載っている、ティザーサイトっぽいサイトを見てください。トップでタイトルを書いているのはルナ先輩、案内役としてメニューの横に立っているのもルナ先輩、ショートストーリー0の開始も、ショートストーリー1の視点主だってルナ先輩です」
「ふむ」
 と、銀河はうなずき、
「つまり、そういった部分に全てひなたくんが出るようになれば、自然と目立つ、というわけか」
「そうなんです!」
 我が意を得たりとばかりにひなたはうなずき、
「今からでも遅くはないです! MITAONSYA先生に頼んで、ティザーサイトのトップイラストとガイドイラストを描き下ろしてもらいましょう! そうすれば自然と存在感が!」
「ショ、ショートストーリーは、こ、これで最後なんだし、も、もう遅いと思うけど……」
 夜明がぽつりとツッコんで、場に沈黙が落ちる。
 しばしの間。
 銀河がこめかみをかりかりとかきながら、
「そういう夜明先輩はどういうアイデアがあるのですか?」
「……わ、私は」
 夜明のフリップには既に文字が記されていた。

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