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ショートストーリー5(夜明・銀河) 3ページ目

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 もうじき新年を迎えようという頃。
「夜明先輩、少々よろしいですか」
 夜明と銀河とルナは、藍園にある小さな神社にやってきていた。
 銀河がそれを切り出したのは、ルナが列を離れたタイミングだった――というか、銀河によって、甘酒をもらってきてくれ、と使いに出されたのだ。今になって考えれば、銀河はむしろ、夜明に話をするためにルナを離れさせたのかもしれなかった。
「……な、何?」
「俺は夜明先輩よりも若輩です。人生の総プレイタイムでいえば、夜明先輩を上回ることはできません。が」
 銀河は眼鏡を中指で押し上げ、人差し指で宙空に線を描いて、
「グラフの0の位置から、16、夜明先輩は進んでおります。俺が進んだのは15です。その差は埋まることはありません。が、その矢印の向きはけしてイコールになりません。それこそ、この世に存在する人の数だけ、矢印の向きはあるでしょう。なればこそ――俺には俺のものの見方があって、ときには夜明先輩の役に立つこともできるかもしれないのです」
 突然何を言い出すのか――そう思う夜明の前で、ほう、と白い息を吐いて、銀河は続ける。
「夜明先輩は、あのとき、自分には部長はできないと言いました。それはなぜですか?」
 あのとき。
 考えるまでもなかった。4月。夜明と銀河が出会ったときのことだ。
「あのときは、言わなかったのです。それは夜明先輩が、それをそれでいいと思っている可能性があったからです。が、夜明先輩はそうではなかった。……夜明先輩は、今の自分があまりお好きではないように見受けられます。だから、聞いておくのです」
「……」
 夜明はうつむく。
 石畳を、お焚き上げの光がちろちろと照らしている。
「そ、それは……こ、こういう性格だから」
 銀河はうなずく。その眼鏡に、火の光が反射している。
「いいでしょう。では次の問いです。……『性格』とは何ですか?」
「……え?」
 一瞬、質問の意味がわからなかった。
 えっと、性格、って、
「う、生まれ持っての、か、考え方とか、行動の傾向……?」
「では、どうしてそれが『こういう性格』だと思ったのです?」
「え……」
 夜明は考え、
「え、えっと、た、たとえば、ぶ、部活動説明会に出られなかったし……」
 銀河は、得たりとばかりににやりと笑う。
「そうです。結局のところ、性格を定義するのは、自分のしてきた思考や行動の結果なのです」
 ぴ、と人差し指を立て、
「だからこそ。実のところ、性格を変えたいなどというのは、簡単なことなのですよ。たとえば目の前に部活動説明会があり、それに出なければならない、でも私はこんな性格だから……と思ってしまったとき。解決方法は、実に簡単なのですよ。無理にでも出てしまえばいいのです。そうすれば、そこにいるのはもう『説明会にも出られない性格の夜明先輩』ではなく『なんだかんだ言っても説明会には出られた夜明先輩』なのですから」
「……」
 それができれば苦労はしない。と、夜明は思う。
 いや、しかし、それでも――銀河の言うことも、夜明はわかるのだ。
「これはある意味では詭弁であり、言葉のトリックであり、インチキです。それでも。性格というのは持って生まれた固定の変えられないモノなどという考えは捨てるべきなのです。次に夜明先輩が何かにぶつかって、自分の性格がイヤだと思うことがあったのなら、そのとき俺のこの言葉を思い出してみてください。――口はばったいことを申し上げてすみませんでした」
 そう言って、銀河は頭を下げてから、
「あと、付け加えておきますが」
「……?」
「俺は、たとえどんなであっても、夜明先輩が好きですよ。ああ、いえ、変な意味ではなく」
 そう言って、銀河はにっと笑った。

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