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ショートストーリー4(銀河・ルナ・夜明) 1ページ目

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 12月28日、午前5時45分。
 東京・国際展示場駅に、銀河たちは下り立った。
 まだ日は出ておらず、周囲は薄暗い。そのせいもあって非常に寒い。海が近いためか風も強く、耳が痛く感じるほどだ。
 周囲は都心の出勤通学ラッシュを思わせるほどの人、人、人の群れ。ざわざわとした喧噪。拡声器で案内指示を出すスタッフの指示に従って、その誰もが足を止めることなく移動していく。
 大規模同人誌即売会「コミックパッション」の初日(全三日開催予定中)であった。
「ふむ、到着したか」
 クリスマスの時とほぼ同じ服装の銀河だが、今日はロングコートの前を留め、マフラーも装備している。見えないところでは肌着に使い捨てカイロを貼っている他、靴の中にもコートの内ポケットの中にもジーンズのポケットにも使い捨てカイロが突っ込んである。
 同行者はルナと夜明の二人だ。ルナはダッフルコート、夜明は黒いロリコートを身にまとっている。中の服はわからないが、普段はスカートの二人が、二人とも今日はロングパンツを履いているのは冬コミに「本気」だからだろう。
 人の群れに流されるようにしながら、三人は固まって歩き始める。
 ルナが声を弾ませて、
「二人とも、昨日の「freeze!」最終回は見ました?」
 銀河はうなずき、
「ああ、なかなかに感動的だった」
「わ、私は……あれは3話くらいで切っちゃった」
「えー、すごいよかったですよ。あの幼馴染み組良すぎるよ天使だよ尊いよ」
 きらきらとした目で語るルナを横目で見やり、
「まあ、今期の女子向けアニメのエースだからな……今日もルナくんの本命はあれなのだろう?」
「うん。公式がグッズセットを出すから、まずはそこからのつもり。五千円だけど、銀河さんの分も買っておく?」
「すまないが頼もう。お金は先に渡しておいたほうがいいか?」
「うん、あんまり予算がないから……」
「了解した」
 二人のやりとりをよそに、夜明が前方を見やって、
「そ、それにしても、い、いつもどおりすごい人混み。い、一般列の最後はあそこかしら?」
「ああ、スタッフの指示が出ている。あちらに向かおう」
 スタッフに従って、一般行列の最後尾に並ぶ。とりあえず「最後尾と言われた場所」に並んだだけであって、列がどこからスタートしてどのようにここまで続いてきているのかはよくわからない。それくらい人の数が多いのである。見渡す限りに人混みが続いている状況というのもちょっと日常ではあり得ないほどだが、そのほぼ全員が「同類」というのも面白いものだと思う。
「も、もう列は動かないのかな……?」
「そのようだな。長丁場になる、体力温存するぞ」
 三人とも、携帯用の椅子を持ってきていた。地面に腰を下ろすのは、女子らしさがどうこうとかいう以前に、冷えるのである。三人で列の形成に配慮しながら椅子に腰を下ろす。
「さて、大手の情報共有に関しては既に済んでいるが、念のために最終確認しておこう」
「う、うん。お、お互いに被ってるところがあったら、チェ、チェックしましょう」
「私は企業からだから、あんまりそっちの大手はいけないんだけど……ごめんね」
 とはいえ、女性向け創作の配置日は今日だから、ルナは企業に行ったあとも多忙なはずだ。と、銀河は思う。
「気にするな。その代わりにあれだろう? 夜明先輩の分も」
「うん、リトルマジカルの原画集が出てるはずだから、3人分買ってくるね」
 リトルマジカルというのは日曜の朝にやっているアニメである。この3人は全員が視聴者であるが、特に夜明が熱心な作品というのが共通認識であった。ちなみにコミパにおけるジャンル区分は「アニメ(児童向け)」で、これも配置日は今日だ。ゆえに、夜明にとっても今日が本番ということになる。
「あ、ありがとう」
「お互い様ですから」
 言いながら、3人はサークルのチェックリストを交換する。銀河は夜明のチェックリストを眺め、
「しかし、知らんサークルはサークル名とサークルカットだけだとさっぱりわからんな……今度あれだ、一度部室に各自所持しているオススメを持ち寄って、情報交換をしたほうがいいのかもしれん」
「たしかに、そういうのはやったことなかったね」
「で、でも、わ、私たちの萌えはあんまり被らない気もする……」
 夜明の呟きに、銀河はふむとうなずき、
「なるほど、たとえばリトルマジカルにしても、我ら三人は見ているところが違う。ルナくん、見所を言ってみたまえ」


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