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ショートストーリー2(ひなた) 5ページ目
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ひなたはすげえ混乱していたし、すげえ舞い上がっていた。
「偶然だね、黄瀬さん。初詣? ……って、聞くまでもないか」
「そ、そう、初詣。ゆゆ、雪穂と一緒に来て」
だからひなたが、たった今自分で口にした雪穂のことも、さらには大竹と吉野のことも、一瞬とはいえすっぽり忘れていたことを責められはしまい。
「え、えっと、赤井くん」
「うん?」
夕陽の前で、ひなたは精一杯かわいい顔をした。微笑み、両手を後ろに組んで、
「こ、今年もよろしくね」
「うん、こちらこそ、よろしく」
夕陽がぎこちなく微笑みながら言って、
「おー、黄瀬じゃんよー」
大竹が横から話しかけてきたことに、一瞬気づかなかった。
不覚だったと思う。
「何見つめあってんだよー。新年早々」
そこまで言われて、ようやくひなたは状況を正しく思い出した。
ぼん、と音でもしそうな勢いで顔を赤くして、
「な、ななな何言ってるのよばかじゃないの偶然だし見つめあってなんかないし別に嬉しくなんてないし!」
言い放って回れ右して、雪穂のもとに戻りながら、失言に気づいた。
まるで嬉しがっているのを隠しているような口ぶりになってしまった。
「ひーちゃん……」
「な、なによ」
「耳まで真っ赤だよ」
「ほっといてよ!」
ひなたは言って、マフラーの中に顔をうずめた。消えてしまいたい。周りの人々の笑い声が、全て自分を笑っているような気がした。
「まあ、ちょっとだけドンマイだけどさ」
雪穂は言う。
「でも、あれだよね。最高の一年の始まりなんじゃないの? 好きな人と顔つきあわせながら迎えるなんてさ」
「 」
ひなたは口をぱくぱくさせて、しかし言葉はでなかった。
いや、しかし、言われてみれば。
年が変わる瞬間を、見つめ合いながら過ごした、のだ。
別に赤井くんのことが好きなわけじゃないけど。
(……)
ポケットの中に用意していた五円玉を、手袋越しの手で握りしめる。
マフラーに隠した口元が、どうしてもにやけてしまう。
うん、願い事は、決まった。
空を見上げると、冬の星が瞬いていた。
夜中だからなのか、それとも年末だからなのか、空気が澄んでいる、と思う。
気持ちのいい新年の迎え方ができた。
良い年になるだろう、きっと。
受験まであと一月と少し。
今年もがんばろう。
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