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ショートストーリー2(ひなた) 4ページ目
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いつの間にか、時刻は二十三時五十五分を回っていた。さっきからちっとも意識していなかったが、定期的なリズムで鐘の音が響いている。除夜の鐘だ。いつから鳴っていたのだろうか。
もうすぐ今年が終わる。来年がやってくる。
――そうだ、その瞬間、赤井くんを見ていよう。
ひなたはそう思いつく。
赤井くんの姿を見ながら終える一年はいいものだと思えるし、
赤井くんの姿を見ながら迎えるー年はいいものになると思う。
……別に赤井くんのことが好きなわけじゃないけど。
「ねえ、ひーちゃん」
「んー?」
「何をお願いするか、聞いてもいい?」
「聞いてもいいけど、答えないよ」
「ぶう。やっぱり真面目な受験生としては、合格祈願かなって思うんだけど」
「うん……」
「私の好きな漫画の主人公が、自分のことは自分でなんとかできるからいいって言って、周りの人たちの無病息災をお願いしてて、それってちょっといいなと思ったんだよね」
「じゃあそうすればいいんじゃない?」
素っ気ない返事になってしまった、と思う。でも、あと三十秒ほどで新年なのだ。夕陽から目を離すわけにはいかない。
――あれ、どうしよう、今から赤井くんを凝視しているとして、どうやって新年を迎えた瞬間を知るのだろう。雪穂に教えてくれと頼むべきだろうか。
と思ったところで。
「十! 九!」
行列のあちこちから、誰からともなくカウントダウンの声が上がった。
これは助かる。
ひなたはじっと夕陽を見つめる。大竹と吉野と、三人で一緒に新年までのカウントをしている。
「六! 五!」
ひなたはその夕陽の声に集中する。夕陽の姿を見ながら、夕陽の声で新年を迎えよう、と思う。ちょっと外野は多いかもしれないけれど、それほど幸福なことはない。
「四! 三!」
そのとき。
前の親子連れの父親がわずかに位置を変えて、夕陽の姿が見えなくなった。
「二! 一!」
ひなたは慌てて、その父親の前に移動した。
そして、
「あけましておめでとう!」
群衆が口々にそう言ったとき。
ひなたの目の前に、夕陽がいた。
人間、視界の中で不意に動くものがあれば、自然と目で追ってしまうものである。
そのときの夕陽は、突如前に出てきたひなたに反応していた。
わずか五十センチほどの距離で、夕陽と見つめあい――
「……あ、あけましておめでとう」
ひなたは言って。
「……あけましておめでとう、黄瀬さん」
夕陽はそれに応えた。
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