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ショートストーリー2(ひなた) 1ページ目

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 聞けば「二年参り」というのは古くからある言葉ではないのだという。
 幼い頃から両親が当たり前のように口にしていたので、黄瀬ひなたはてっきりそれを伝統的な参詣の方式か何かだと思っていた。
 だが、中学三年の今年になって、友人である源川雪穂を「二年参りに一緒に行かない?」と誘ったところ、きょとんとした顔で「何それ?」と言われてしまったのである。
 そんなわけなので注釈しておくと、二年参りというのは「大晦日の深夜零時をまたいで神社にお参りすることで、二年にわたってお参りした感じになれる」というものである。地域によっては大晦日の夜に参詣し、一度帰宅して元旦に改めて参詣するという「きちんとした」ところもあるらしいのだが――こういう事に関して、人間は楽をしたがるモノなのだなあ、とひなたは思う。社会科の授業で勉強したことがある、たとえばお経が書いてある回し車を回すことでそれをたくさん読経したことにしてみたり、特定の日にお参りするとたくさんの日をお参りしたのと同じ分の御利益があると決まっている神社があったり、信仰というのもいいかげんなものだ。
 いやまあ、なんか今の日本人は基本的に無宗教だっていう話だし、本当の意味で信心深いということがどういうことなのか、ひなたにはよくわからないのだけれども。
 12月31日の22時57分。
 ひなたは自室のスタンドミラーと向かい合って、お参りに着ていく服を選んでいた。
 お参り程度、ではあるのだ。
 コンビニ前で雪穂と待ち合わせて、一緒に神社に行って、お参りをして帰ってくるだけ。別に着飾る必要なんてない。
 のだけれど。
(……地元の神社、だもんね)
 これは関係ない話だけれど。
 ひなたは思う。
 これは全く関係ない話だけれど、このあたりには神社といえば「市杵島神社」しかない。小さな神社ではあるけれども、ひなたの家の最寄り神社も、赤井夕陽の家の最寄り神社も、そこである。
(……)
 ひなたは拳を握りしめて、少しだけ気合いを入れる。


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