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ショートストーリー1(ルナ・銀河・夜明) 3ページ目

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 アーケードを抜けてしばし先、静かな住宅街にあるマンションの最上階。704号室が銀河の部屋であった。
「そういえば、ルナくんは初めて来たんだったな?」
 銀河は言いながら、部屋の扉を開ける。
「俺は高校入学と同時に、ここで一人暮らしをしているのだ。我が家だと思ってくつろいでくれたまえ」
 銀河の家の中は、かすかなミントの香りで満ちていた。玄関を上がってすぐにあるのはフローリングのリビングキッチンで、中央に置かれたローテーブル、それを囲む三つのクッション、壁際のソファからシンク周りまで、綺麗に白色と木を基調にまとめられている。温もりのある清潔な部屋、といった印象だ。
「もっと散らかってるかと思った」
「今日のために片付けたのだ。せっかくのよあ――クリスマス会なのだからな」
 銀河は言って、
「まあ、そこのクッションにでもかけてくれたまえ。すぐにチキンを温めよう。七面鳥か鶏をまるごと一羽自分で焼くというのも考えたのだが、やはり少々無理かと思ってな。結局はケンタになってしまったのは申し訳ないのだが」
「わ、私、ケンタ、好き」
「おいしいですよね、あの皮の味付けを家庭で再現するレシピとかも見ましたけど、やっぱり本物がいいかなって思います」
「すまんが、そこにある大皿の上に適当に菓子を開けておいてくれるか? チキンが用意できたら乾杯をしようではないか」
「え、えっと……わ、私とルナはオレンジジュース、ぎ、銀河はコーラでいい?」
「はい」「ありがとうございます」
 夜明はコーラのペットボトルをゆっくり開けかけて、
 炭酸が噴きだす音にびっくりして、慌てて蓋を閉め直す。
「――えっと、コーラは私がやりますね。夜明先輩はオレンジジュースをお願いします」
「お、お願い、ルナ」
 ルナは夜明の手からコーラのペットボトルを受け取り、一気に蓋を開ける。ぷし、と炭酸の音がするが、別にこぼれ出したりはしない。
 ルナがコーラを、夜明はオレンジジュースを紙コップに注いでいく。
 銀河はレンジの中でぐるぐる回るチキンを眺めながら、
「ノンアルコールの発砲ワイン的なアレも用意しようかと考えたのだが――ああ、いや」
 失言だった、とばかりに口をつぐむ。
 夜明は蓋を閉めたオレンジジュースのペットボトルをテーブルにおいて、
「ぎ、銀河……え、えっと」
 もじもじと、言う。
「あ、ありがとう」
 銀河はかりかりと頭をかいて、
「――何のことだかわかりませんが」
「わ、私が、た、炭酸飲めないから気を遣って、」
「いや、なんというか、アレもそんなに旨いものではないと思いますし。もちろん好みの問題というのも多分にあるのでしょうが、俺はコーラのほうが好きです。……なんだねルナくんその顔は」
「いいえ、別に」
 ルナが言ってから、一瞬だけ沈黙があって――
 電子レンジがチンと音を立てた。
 銀河はチキンの乗った皿をレンジから取り出して、テーブルの中央に運ぶ。
 取り皿を配り、コーラの入ったコップを手にとって、それを高く掲げて、
「それでは――メリークリスマス!」

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